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十番ばなし

麻布十番の店主が語る 十番ばなし #021 「たぬき煎餅」 日永治樹さん

全国で知られている麻布十番の有名店、たぬき煎餅。本店では店主自らが、店頭で製造して熟練の業を披露し、お客様や訪れる人を喜ばせている。3代目の店主・日永治樹さんに、お店の今と将来、商品のこと、街のことについてのお話をうかがった。

 

 

 

お客様の顔が見える商売を

お客様の顔が見える商売を

 

 

―まずは創業80年を超えるたぬき煎餅の歴史を教えてください

 

日永:昭和3年(1928年)に祖父が創業し、昭和10年に煎餅店で唯一の宮内省御用達となりました。当時は柳橋(浅草地区)に店があり、主に花柳界の方々がお土産にしていたようです。たぬきの店名は〝他を抜く〟優れた商品を作るというのと、覚えてもらいやすいということからです。その後に戦争になり、東京大空襲で店も住居もすべて焼けてなくなりました。二代目である父が麻布十番で店を復活させたのは昭和30年です。赤坂、新橋、渋谷(円山町)などの花街からのアクセスに便利だったのと、狸穴、狸坂など狸にちなんだ地名が多く、うちの店にはもってこいだと麻布を選んだそうです。

 

 

 

―一度聞いたら忘れられない店名ですよね。そんなお店の3代目を継いだ時のことを

 

日永:幼い時から祖母に「おまえは3代目になるのよ」と洗脳されるように言われて育ちましたから、大学の就職活動でもう意識していました。経営を勉強しようと金融関係も考えたんですが、父との約束で3年という期限があり、それでは思うような仕事が覚えられないので、同業種の花園饅頭に入り、そこで工場での製造や百貨店での営業職を経て、店を継ぎました。その経験は今も役に立っていますね。

 

 

―その後に職人として独り立ちするまでにはどのくらいかかったのですか

 

日永:最初は父が焼く横で私が醤油を塗って。最後に何枚か焼かせてもらっていたのが、段々と私の焼く枚数が増え、いつしか私のほうが多くなっていました。父は昔の人ですから、仕事は教わるもんじゃない、自分で工夫したらいいんだという感じで、面と向かってこうしろああしろとは言わないのですが、ぶつぶつぶつぶつなんか言っていて。自分で試行錯誤する日々が続き、父がぶつぶつ言わなくなり、「いいのが焼けてるね」と言ったのは、始めて5年目くらいでした。

 

 

 

 

お店を守るとともに麻布十番の歴史も伝えていきたい

お店を守るとともに麻布十番の歴史も伝えていきたい

 

 

―お店を営むうえで大切にしているのはどんなことでしょう

 

日永: お客様の顔が見える商売、私の目の届く範囲で商売をすることです。お客様を第一に考え、現在2店の百貨店で展開していますが、今後は極力出店を控えます。一方、お客様の利便性を考えるとネット販売は必要だと思いますが、こちらは直接私がお客様に対応することにしています。平日店頭で製造しているのも、お客様と直接話せて情報がいただけるという意味もあるんですよ。 それと原料の質を落とさないこと、常に製造現場に立ち会うことも大切です。これは花園万頭時代に学びました。

 

 


―店頭での実演は麻布十番の名物とも言えますよね。生まれも育ちも麻布十番という日永さんの、街への想いをお聞かせください

 

日永:そうですね。暮らしている皆さんが楽しい街にしたいです。暮らす人が楽しければ、新しく来る方にも外から来る方にもおもてなしができると思います。 また古いものと新しいものが混在しているのは、街の魅力でもあります。私は母校の南山小学校で10年位、麻布地区の歴史や商店の役割などを話しに行っていますが、街を知ってもらうことは私にもうれしいことです。

 

 


―10年も街の歴史を次世代に伝えているんですね。ではたぬき煎餅の今後や4代目についても教えてください

 

日永:子供5人のうち3番目の長男は、店を継ぐと言ってくれて、商学部を目指して大学受験の真っ最中です。長女は百貨店の店舗で働いてもらっています。でも先のことはわからないです。子供たちには好きなことをしてもらいたいと思っていて。次男は音楽の方面に進んでいるし、次女は今大学で保育士の勉強をしています。末っ子はまだ小学生ですから、私もまだまだ頑張らなければというところです。将来は長男と並んで、ここで焼くことになりますかね。でも長男は左利きなんです、どういう位置に立つか考えなきゃ。 今は義務化された成分表示への対応と、新製品の開発をすることに頭を悩ませています。

 

 

たぬき煎餅

 

たぬき煎餅

大きな信楽焼の狸が出迎えてくれる店を入ると、平日は高級な御用蔵醤油を使った、狸形の直焼き煎餅の製造風景をめにできる。ベストセラーのチーズ入り煎餅たぬ吉をはじめ、たぬき物語、赤鬼だぬきなど、日永さんが考える商品名も楽しい、多彩な商品がたくさん並んでいる。
製造は朝8時頃から始まり、夜8時ごろまでかかるという。日永さんの日課は営業前の朝5時からのウォーキング。天現寺や芝公園、ミッドタウン、東京タワーなど、日替わりで様々なコースを歩いているそう。

 

住所:港区麻布十番1-9-13
電話:03-3585-0501
営業:9:00~20:00 土曜・祝日~18:00
不定休
» 公式サイト内お店情報はこちら

 

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