夜は魚料理を中心にした、お酒も飲める食事処、昼は焼き魚などの定食を提供し、列ができることもあるふじや食堂。良心的な価格と味で地域の住人や界隈で働く人にとって、なくてはならない存在になっている。長らく人気を保っているその理由を探るべく、3代目の石原隆一さんにお話を伺った。
―店名に食堂のついた和食店は珍しいですよね。店名は創業時から?
昭和3年に東麻布で創業して、昭和30年に一の橋に移り、平成元年からこの麻布十番でやってます。名前はずっと変わってなくて、最初はここが分店で本店が別にあったのが、今ふじや食堂はここだけになりました。
戦争中は米がなくなってパン屋さんをやって、終戦後には食事を提供する許可を受けた〝東京都指定民生食堂〟になり、今のかたちになったのは一の橋に移ってからですね。
―歴史とともに、お店のかたちが変わってきたんですね。3代目の隆一さんになって変わったのはどこですか
父の代まで魚を配達してもらっていたのが、平成9年から築地に行くように。もっと自分の目で素材を見て、交渉もしたいと思ったからです。そこからメニューなんかもだいぶ変ったかもしれない。同じ物でも市場では値段がまちまちだから、一周して一番安い店で買ったり。大変な日もありますが、仕入れ価格は抑えられるし、メニューの幅は広がりました。
でも豊洲では、月極か朝10時以降しか駐車できなくなるんですよ。10時以降じゃお昼の営業に間に合わなくなる、そういう人は多いと思うんで、移転が延期になって整備されるといいんだけど。
―築地の問題点はそんなところにもあるんですね。お店はどんなことを意識して運営しているのでしょう
味を守ること。うちの名物はサバの味噌煮なんだけど、今でも86歳の母親が朝、仕込んでくれてます。昭和30年代からそのまんまのメニューです。味や価格、大きさを変えないために、例えばかきフライも、三陸産で大きさもほぼ同じものをいつも入れるようにしてます。メニューによっては市場で手に入らなかったり、高騰し過ぎで品切れになることもあります。例えば今出している北海道産のししゃもも、今年は漁獲量が少ないらしくこれから高騰しそうなんですよ。
季節ごとに変えるメニューには、ちょっと変わった素材の料理を加えることにしてます。かすべ(えいのひれ)の竜田揚げや、ぎばさという海藻を使った料理などですね。
―長くこの街にある飲食店から見て、街の変化をどこに感じますか
そういえばこの辺にもいわゆる食堂はたくさんあったんだけど、全部なくなっちゃいましたね。不景気のせいか最近はサラリーマンがいなくなったみたいです。以前はお客様が全員サラリーマンだった日もあったくらいで。最近は1〜2人の少人数や家族で食事をする方が多くなりましたね。
―ふじや食堂が幅広い年齢層にここまで長く支持されている理由はどこでしょう
作り置きや冷凍のものではないから誰でも作れない料理なのと、一人で来ても焼魚とお刺身とご飯で和食が気軽に食べられるからじゃないかな。飲みに来る、食事が目的など色々に使えて勝手がいいかもしれません。
価格もずいぶん値上げしてないですよ。消費税が8%になった時も上げてないけど、これから10%になったらどうしましょうかね。
―値段は気になるところですよね。麻布十番の街で好きなところはどこですか
そうですね、十番の商店街を盛り上げている仲間が好きです。もし何もしなければお客さんが誰も来なくなるところを、色んなイベントを企画したり、祭りを盛り上げたり、最近ではマリオカートやなまはげを呼んでました。みんなボランティアなのに頑張ってますよね。その努力もあっていい街になったんじゃないかな。
―ではその麻布十番を支える存在であるふじや食堂のこれからについてお聞かせください
大きく儲かる商売じゃないけど、とりあえずなくならないようにしなきゃならない。それには魅力を保てればいいんじゃないかと。夜は今、外で修行してきた息子がやってくれています。このまま楽しんで続けられればいいですね。
ふじや食堂
お昼は焼魚や煮魚、揚げ物などの定食が700円〜。夜は刺身や旬の魚を使ったものなど種類豊富なメニューが並ぶ。リーズナブルにきちんとした和食が味わえるとあって、三田や広尾など界隈からはもちろん、遠くから通う人も少なくない。
石原さんは麻布十番商店街のホームページを立ち上げたメンバーの一人。まだネットが普及してない時代で理事会にもHPを作るという案が通らず、大変だったとか。
住所:港区麻布十番3-7-1
電話:03-3451-1063
営業:11:30〜14:00、17:30〜23:00
日曜・祝日休
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