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十番ばなし

10月特集 | 十番ばなし #034 「とらや帽子店」 小杉 和子さん

先代が創業してからずっと帽子ひとすじで来た、とらや帽子店。素敵な帽子がずらりと並ぶ店内に入ると、どれにしようか、つい目移りしてしまいます。現在、ひとりで切り盛りしている二代目店主の小杉和子さんに、麻布十番とともに歩んできた歴史や今後の展望などについてお聞きします。

 

 

 

 

 

――以前はご自身で買い付けもしていたと伺いました

 

10年くらい前まで、海外旅行のついでといった感じでしたけどね。イタリアのボルサリーノとか、今でこそ百貨店でも手に入るブランドですが、昔は国内に流通ルートがなくて自分で買ってくるしかなかったんですよ。日本の代理店が輸入するようになってからは、そちらにお願いしています。
今、扱っているのは国産の方が多いですね。日本製の帽子もすごく素敵なんです、値段もお手頃だし。

 

――小杉さんは2代目だそうですが、お店を始めたのは?

 

父が1950年にオープンしました。私が継いだのは21年ほど前ですが、それまでは母と一緒にお店に立っていたんです。2人ともすごく元気で、80代半ばまで現役でした。
父は戦後、浅草橋の帽子屋さんで働いてから、ここに土地を買って住居兼店舗を建てたんです。越してきたのは私が生まれてすぐでしたね。

 

――子ども時代の麻布十番はどうでしたか

 

乾物屋さん、下駄屋さん、はかり売りのお菓子屋さん……どこも平屋で、昔ながらの庶民的なお店ばかり。都電の路線がたくさん通っていたからにぎわいはありましたね。うちの前はまだ舗装されてなくて、車もめったに通らないから道端でゴム跳びなんかをして遊んでいました。缶けりしてる子もいましたよ。

 

――パティオ通りでゴム跳びに缶けり!

 

今じゃ信じられないでしょ。ここは下町で人情味があるから、ご近所さんがいつも見守ってくれました。でも悪さをしたら、よその子でも頭にげんこつ。これも今じゃありえないですよね(笑)。
通っていた南山小学校や当時からあった網代公園、たまに昔のままのお宅なんかもあって、そういうところを通りかかると、懐かしさがこみ上げてきます。いい時代でした。

 

――当時からずいぶん様変わりしたんでしょうね

 

遠方からのお客さんが増えたり、何もなかった場所にお店ができたり、古さと新しさが共存しながら発展して、街自体が成長している感じですよね。うちも開業から12年くらいで2階建てに改築して、今のビルになったのが1980年代。バブルに入る直前でした。
以前は男物が多かったけど、代替わりしてからは女性向けの商品を増やしました。私自身、帽子が大好きなんです。どうせなら自分の好きなことをやった方が楽しいですから。

 

――跡を継ぐにあたってご苦労もあったのでは?

 

親がしっかり土台を作ってくれていたおかげで、あまり苦労は感じなかったですね。周りもみんな顔見知りだから良くしてくださって。それまで私はずっと専業主婦だったんですが、子育てが一段落して暇にしていたから、ちょうどいいタイミングだったのかも。自分好みの帽子をお店に並べたら楽しいだろうな、なんて思いもありました。
でもやるからには納得いく形にしようと、取引のなかった問屋さんに納品をお願いしたり、海外での買い付けも始めたり、とにかく頑張ってきました。

 

 

 

 

 

 

 

――おひとりでの経営は大変かと思いますが、定休日はしっかり休息を?

 

お店以外のことを集中してやるから、休日の方が忙しいくらい。ジムでトレーナーにみてもらいながら体も鍛えています。40過ぎからフルマラソンを始めて、海外のレースにもよく参加していました。ホノルル、ボストン、ニューヨークとか。

 

――やはり海外はお好きですか

 

ええ、いろんな出会いがありますから。現地で必ず帽子を見るので仕事にもつながります。膝への負担を考えてマラソンはもうやめたけど、代わりに今はトライアスロンをやっています。

 

――マラソンからトライアスロン! すごくお元気ですね

 

動いているのが好きなんですよ。結婚して、麻布十番を離れたから、ずっと電車通いだし。この体力は仕事にも役立ちますね。

 

――去年からコロナ禍で大変なこともあったと思いますが

 

一時期だけ2店舗にしていたんです。最初の緊急事態宣言が出て、この辺りは閉めちゃうお店も多かったけど、帽子は日除けにする人の多い夏がシーズンで、すでに注文した在庫が大量にあったから売るしかないわけですよ。それで自宅のそばに見つけた空きテナントを去年5月から3ヶ月だけ借りて営業しました。その間、こっちは娘2人に店番を頼んで。もちろん売上は落ちたけど、あの頃は都心より地元の商店街に人が集まっていたから、それなりにお客さんも来てくださって。必死に頑張ったおかげで、なんとか切り抜けられましたね。

 

――柔軟ですね、今後も時代にあわせ変わっていくのでしょうか

 

通販も始めようかと思っているんです。コロナ禍をきっかけに娘がお店に関わって新しい風も吹いて、待っているだけじゃなく、こっちからも発信しないといけないんだって、痛感しましたから。

 

――お店をやるうえで心がけていることを教えてください

 

真面目に一生懸命、これに限ります。あとは人と関わることが楽しいんですよ。そうじゃなければ、この歳になっても客商売はできません。
夫もまだ仕事を続けているので、夫婦そろって生涯現役で駆け抜けられたらいいなあ、と。人生も商売もマラソンと一緒ですね。

 

 

 

とらや帽子店

麻布十番駅のほど近く、パティオ通り沿いに佇む帽子専門店。国内外のお洒落な帽子が並び、気さくな人柄の店主・小杉さんが素敵な帽子姿で出迎えてくれる。レディース、メンズともお手頃な価格帯から高級ブランドまで豊富な品ぞろえで、帽子飾りなどワンポイントのアイテムも扱っている。

 

住所:東京都港区麻布十番2-19-1

電話:03-5427-1847

営業時間:12:00〜18:30

定休日: 火曜日

» 公式サイト内お店情報はこちら

 

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