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私が麻布十番でお店を始めたわけ ランドリー編

数多くの名店が集まる麻布十番。老舗から新店舗まで個性豊かなお店が軒を連ねています。そんな魅力いっぱいのお店が、なぜ麻布十番にお店を開くことになったのか、どのような思いでお店を運営しているのかなどをインタビューしていきます!

 

今回は、半世紀以上にわたり麻布十番でクリーニング店を運営している「岩崎ランドリー」の岩﨑信彦さんに、お話をお伺いします。

 

 

 

 

麻布十番に店を構えて半世紀

 

麻布十番大通りから入ってすぐ、白を基調としたビルの1階に「岩崎ランドリー」はあります。おしゃれな外観はブティックと見まがうほど。この場所に移ったのは2年半ほど前のことです。

 

 

 

 

岩﨑さん「先代である父は埼玉出身で、戦後青山のクリーニング店で働いていたのですが、麻布十番付近に良い物件があったということで昭和30年代に独立しました。ですから麻布十番に特別な思い入れがあったわけではないんです。その後、東京オリンピックによる区画整理をきっかけにビルに建て替えています。そのころになると日本人の生活様式も変わってクリーニングの需要も増えていきました」

 

二代目となる岩﨑さん。お父さまの代からのお客さまもいる一方で、開発に伴って麻布十番を去る住民も多く、商店街も様変わりしました。岩崎ランドリーが現在の場所に移ったのも、再開発計画によるものです。

 

 


移転前の岩崎ランドリーと当時の岩﨑さん

 

 

岩﨑さん「当店のような工場一体型のクリーニング店も厳しい環境にさらされています。ドライクリーニングは有機溶剤を使うので、溶剤の管理や排水などの法規制が年々厳しくなっています。一時は麻布十番に7~8軒あったクリーニング店も、今は2軒になっています」

 

ちなみに「ドライクリーニング」は、水ではなく有機溶剤を使って洗います。水を使わないので「ドライクリーニング」と呼ぶのだそうです。有機溶剤とは、主に石油や塩素を原料にした液体で、油によって油性の汚れを落とすという仕組みです。水洗いよりも型崩れや縮みが発生しにくく、衣類への影響も少ないのが特徴です。

 

 

お客さまの高い要求にこたえる“オーダーメイド”のクリーニング

 

さらに大手クリーニングチェーンの取次店やインターネットで注文できる宅配クリーニングも進出し、価格競争も激しくなっています。その一方で、ファッションにこだわりのあるお客さまの多い麻布十番という土地柄もあって、岩崎ランドリーを選ぶお客さまもまた多いのだとか。

 

岩﨑さん「洗濯表示にクリーニングは不可と書かれているものや高級ブランドのものなど、『取次店やネット店舗で取り扱いを断られたので、何とかできませんか』と来店されるお客さまもいます。お客さまからの高い要求に応えるには、こちらも付加価値を付けていくしかありません。そうなると、クリーニングも究極を目指すことになります。たとえば、レアなボタンやブランドのボタンが使われていて、万一破損すると代替えできない場合はボタンをあらかじめ取り外してはずして洗うなど、お客さまお一人おひとりに応じたオーダーメイドのクリーニングですね。そうすれば大手チェーンと価格競争をしないで済みます。もちろんその分、手作業は増えるのですが」

 

その手作業の工程とはどんなものなのでしょうか。所狭しとさまざまな機械が並んだ作業場を見せていただきました。

 

岩﨑さん「たとえばワイシャツなどの仕上げで使うプレス機は一般的なものだと、カフスや襟をプレスする機械、身頃や袖など全体をプレスする機械があります。プレス機は標準サイズの衣類を対象としているので、それ以外のサイズのものや、デザイン性の高いものなど一般的なプレス機では対応できない衣類は、ひと手間加えた手作業で仕上げることになります。私と妻の二人で作業しているので、衣替えの季節などはパンク寸前になることもあります」

 

 

 

 

麻布十番の歴史を感じさせる仕事もあります。それが、秋祭りで使う半纏です。

 

岩﨑さん「麻布十番に7~8軒クリーニング店があったころは何とかなりましたが、今は当店に集中して持ち込まれるので、ありがたい反面大変ですね。大量の汗を吸っているので、放っておくとカビや色落ちの原因になります。だから秋祭りの後は一般のお客さまをお断りして、半纏クリーニングの専門店と化しています。商店街の方々は父の代からの仲間なので、できませんとはいえませんから(笑)」

 

 

覚悟を決めて家業を継いだ。厳しかったお父さまの教え

 

気になるのが後継者。岩﨑さんのお子さんは現在大学4年生で、すでに就職が決まっているそうです。「将来、後を継ぐと言ってくれればうれしい」と本心を明かす一方で、こんな裏話も聞かせてくださいました。

 

岩﨑さん「実は私も家業が嫌で、大学卒業後はサラリーマンになったんです。時はバブル。浮かれた生活をしていたら、母や親戚から責められました。『店を継がないのなら、家を出なさい』と。それで、覚悟を決めて店を継ぐことにしました。そこからはクリーニング修行です。父が80歳になったときに私が社長にはなりましたが、権力は父が握っていました。商店街の親父は、生涯現役ですからね」

 

お父さまからは、商売人としての姿勢をたたき込まれました。特に厳しかったのが時間とお金だといいます。

 

岩﨑さん「就業時間が終わっても、その日の仕事が終わるまでは帰してくれませんでした。また、現金と帳簿が1円でも合わないと合うまでやり直しです。キャッシュレス決済を導入した今でもその姿勢は貫いています」

 

 

 

 

そんな岩﨑さんにとって、仕事のやりがいとは何なのでしょうか。

 

岩﨑さん「お客さまから、『どこのお店でも取れなくて諦めていたシミが、きれいに取れている。ありがとう』と言われたときは、それがお客さまにとって思い入れがある服ならなおのこと大きな達成感があります」

 

手作業で差をつける岩崎ランドリーならではのエピソードです。サラリーマンを辞めて、お店を継いだことに後悔はないと岩﨑さん。

 

岩﨑さん「私は今年58歳。サラリーマンの同級生たちは役職定年を迎え、サラリーマン人生の先も見えている歳です。どちらがいいかはわかりませんが、私には定年もないし自分のやりたいように仕事ができている。商店街の仲間もいます。商店街を維持するためにみんなががんばっているし、それで商店街が繁盛しているから当店にもお客さまがいらっしゃる。麻布十番という街のつながりがあるから、みんな商売を続けているんじゃないでしょうか」

 

 


岩﨑さんご夫妻

 

 

作業場を見せていただいているとき、機械が動くと大きな音とともに高温の蒸気で室温が一気に上がりました。夏場はサウナ状態だそうで、体力勝負の仕事なのがわかります。「手作業でひと手間かける」と口で言うのは簡単でも、クリーニング職人としての誇りがなくては続けられない仕事だと痛感しました。

 

誰にでも思い入れのある服はあるはず。大切にしたい服はプロに任せて、手作業の良さを感じてみるのもいいのではないでしょうか。

 

 

住所 〒106-0045 東京都港区麻布十番1-6-4
電話番号 03-3401-9318
営業時間

08:00~18:00

定休日

日曜、祝日

主な取扱商品

クリーニング

 

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