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十番ばなし

麻布十番の店主が語る 十番ばなし #015 「麻の葉」 須﨑 和子さん

「絵てぬぐい」は、 「絵画のように飾る手拭」と言う 発想から生まれた。

 

 

手拭(てぬぐい)の歴史は、日本の織物の歴史そのものとされています。
織物の発祥は奈良時代で、神仏の像などの掃除に用いられていたと言われています。当時は麻や絹で織られており、とても貴重なものだったようです。
平安時代になっても布は依然として貴重品で、祭礼などを司る高貴な人しか手にすることはできず、神事の際の装身具として使われていたようです。養老律令が施行されて以降、麻は庶民が、絹は高貴な宮人が使用したそうです。綿は中国大陸などから渡来していましたが、絹よりも高価だったため、普及はしていなかったようです。
鎌倉時代から布(布巾)は徐々に普及し始め、室町時代には、湯浴みの後に身体を拭うためにも使われるようになり、戦国時代には、更に広範囲に使われるようになったそうです。
江戸時代になると綿花の栽培が盛んに行われるようになり、木綿の織物と共に普及し始め、庶民の生活用品として欠かせない存在になりました。そしてこの頃から、「手拭」という言葉が生まれたようです。
手拭の本来の役目は文字通り汗や水を拭き取ることでしたが、江戸時代には、実用品という枠を超えて、その用途は多岐に亘るようになっていました。
例えば、お洒落な小間物として首に巻いたり頭に被ったり、歌舞伎の世界に取り入れられて大きな
役割を果たすようになったりした他、縁起物としての贈答、祝儀や不祝儀の配り物、歌舞伎役者・大相撲の力士・落語家などの名刺代わりとしても重宝されました。

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用途が広がるにつれて、作らせる人の名前や屋号・家紋を入れるなど、意匠も次第に複雑になっていきました。

そして専門の染屋(手拭染屋)の仕事も分業化が進み、染色技術も向上していきました。
明治時代に入り、染色の技術に画期的な発明が生まれました。「注染(ちゅうせん)」です。
これにより、複雑な図柄への対応が可能となり、繊維産業の隆盛とあいまって、優れた意匠の手拭が作り出されるようになった一方で、文明開化の波がタオル・ハンカチなどの流入という形で押し寄せることになり、手拭は他の日本古来の文化に由来するものたちと同様に、“時代遅れ” という評価を下される、苦難の時代を迎えました。

 

 

そして大正を経て昭和から平成へと時代が移り変わろうとする頃、かつて文明開化の時代に“時代遅れ”とされた日本古来の文化、とりわけ手拭が放つ魅力に改めて注目し、その価値を復権させようと試みる人物が現われます。1985年に「株式会社アート蒼」を設立した麻布十番生まれの江戸っ子、須崎和子さんです。
須崎さんにとって、手拭と、その背景にある日本文化の魅力は、“時代遅れ”どころか、斬新とさえ言えるものでした。
平織りされた晒木綿の風合い、注染による深い色合い、そして洗練された文様のデザイン性…それらのすべてが相まって醸し出す「粋」という感性が、単に「伝統」という表現で済まされるにとどまらず、現代に生きる人々にとっても“モダン”であると感じた須崎さんは、自身の感性を表現すると共に事業理念を実現させる手段として、手拭を選んだのでした。
「日本の伝統文化を現代のくらしの中で楽しむ」をコンセプトに、須崎さんならではのオリジナリティーを籠めて創作する作品たち―「絵てぬぐい」の誕生です。

 

 

 

 

 

「注染」は、「絵てぬぐい」の制作に 欠かせない伝統技法。

 

 

―「絵てぬぐい」の制作工程について、教えていただけますか?

 

完成までには何人ものベテランの職人さんが関わっていて、それぞれの専門分野ごとに様々な苦労や工夫があり、説明するのは簡単ではありません。そこで、幾つかの工程をできるだけ簡潔に挙げてみますね。

1, 原画の作成…絵師(いろいろな分野のアーティスト)に依頼する。
2, 型紙の作成…伊勢型紙の型彫り師が原画の通りに型紙を彫る。
3, 型紙を紗張り…紗張り職人が型紙に絹紗を張り、仕上げる。
4, 糊置き…型紙を使って染めない部分に防染糊を置く。
5, 手染め…「(折り付け)注染」という技法で反物を染める。
6, 水元(水洗い)…染め上がった反物を水に流しながら洗う。
7, 反物を日光でよく干す。
8, 反物のしわを伸ばす。
9, 多色の場合は、2~8の工程を繰り返す。
10, 手拭の寸法にカットし、畳んで仕上げる

 

型彫り

2,型彫り

糊置き

4,糊置き

染め

5,染め

水元

6,水元(水洗い)

干し場

7,干し場

 

 

 

 

「麻の葉」ブランドの「絵てぬぐい」を、 麻布十番から世界に向けて発信。

 

 

―アート蒼は、初の直営店を麻布十番に設け、店名・ブランド名を「麻の葉」とされました。お話の最後に、麻布十番への想いなど、お聞かせ下さい。

 

麻布十番は、私が生まれた土地です。
幼いながらも、下町的な人情とハイカラな空気を感じて、親しんできました。小さい頃、よくハタキで追い立てられていた本屋さんはもう無くなりましたが、麻布十番商店街では、当時の店が変わらぬ佇まいのまま、何代目かの当主が守っておられる例も多く見受けられます。
5年前に、取引先の一つである歌舞伎座(東京・銀座)さんが建て直されることをきっかけに直営店の設置を検討したのですが、場所を決めるに際して、馴染みのある麻布十番を選ぶのに、迷いはありませんでした。店名は、丈夫でスクスクと真っ直ぐに育つとして江戸時代に好まれた日本独自の文様、「麻の葉」から採りました。
オープンしてみて、改めて、国際色豊かな土地柄だと認識しました。
昔から大使館が多く、居住する外国人が多いことは感じていましたが、世界を舞台に活躍する国内外のビジネスマン、そして彼らが招く観光客がこれほど多いとは、予想以上でした。そして「絵てぬぐい」を見て下さった方々の多くから、嬉しいお言葉を頂戴します。
麻布十番に興味を持って訪れる観光客に注染の伝統や文様の話などをさせていただくと、皆さん目を輝かせて下さいます。そして、皆さん、笑顔になっていかれます。店頭に居て、嬉しい時間です。
麻布十番は、「麻の葉」ブランドの「絵てぬぐい」を世界に向けて広めたいとの想いを、ますます強くさせてくれる街です。
オープンして2年目の平成24年に「港区商店グランプリ」へのご推薦を賜わり、一位の「港区長賞」を受賞しました。この賞は、「絵てぬぐい」の創作に携わる多くの職人さん・アーティストさんへのものでもあると、心から感謝しています。

 

 

(写真:中島 祐輔 文:山田 眞裕)

麻の葉

 

麻の葉

日本で最初に「絵てぬぐい」という呼称を使いはじめ、現在のブームの先駆けとなった。30人を超える原画作家による300種類以上の絵柄を取り揃えるほか、歌舞伎座に出入りする関係もあり歌舞伎絵柄が多いことも大きな特徴の一つ。昭和61年、第一回の「絵てぬぐい」展を東京の百貨店で開催。その様子がNHKで放映され、大きな反響を呼んだ。現在では、300回を超える「絵てぬぐい展」の実績を誇っている。
住所:〒106-0045 港区麻布十番1-5-24 1F
電話:03-3405-0161
営業:10:30〜19:00(日〜木)
   10:30〜20:00(金・土)
定休:年中無休
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