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十番ばなし

麻布十番の店主が語る 十番ばなし #023 「松尾寫眞館」 松尾道雄さん、松尾賢一さん

麻布十番商店街で100年近く続く松尾寫眞館は、東京でも希少な存在。現在は創業者の孫に当たる3代目が営んでいる。2代目である松尾家の長男・道雄さん、次男の賢一さんのお二人に、写真館と街の昔のこと今のことをうかがった。

 

 

 

写真を残して撮った時の気持を思い出して

 

 

―1927年創業の貴重な写真館ですね

 

道雄:父がここを始めたのは昭和2年。街に複数の写真館があった当時は写真の全盛期でした。うちにはお手伝いさんと3人の門下生がいてね。麻布には花街があったから、相撲取りの大鵬やエノケン(榎本健一)や色んな人が遊びに来て、父はよく写真を撮りに呼ばれて行ったようです。

 

賢一:当時百貨店の白木屋(東急百貨店の前身)があって、そこが2階建てだったのがうちはこの辺で唯一の3階建て。支店もあり、父は日本に7台しかないダットサン(今の日産)のオープンカーやハーレーに乗ってて。景気がよかったんでしょうね。

 

 

 

―ずいぶん華やかだったんですね。お二人が二代目となった頃は?

 

道雄:大学で写真を勉強した後、最初は長男と次男(道雄・賢一さん)がやっていて、四男が加わったのが昭和42年。

 

賢一:兄弟3人を毛利元就の話になぞらえ“3本の矢”なんて言われて。成人式や七五三には100人くらい店に並んでね。朝5時から支度して、遅くまで仕事していました。麻布十番は高級住宅街だから、企業の社長・会長さん、皇族の親戚の方もお客さんにいました。 それとエリート家庭の子が多く、受験用や就職用の写真を撮るとうまくいくもんだから、松尾寫眞館で撮ると縁起がいいといわれて、受験用などの注文も増えましたね。

 

 

―100人とはすごいですね。今と当時の写真館では在り方も仕事の内容もずいぶん変わったのでは

 

道雄:そう今はデジタルで。でもデジタルになった時はまだよかったんだけど、スマートフォンになってからは、写真を撮って送る(共有したり)のが当たり前になって、紙に残さなくなったよね。 それと今は何十枚も数を撮ってその中からいいやつを選べばいいけど、フィルムの時は1,2枚だから間違うわけにいかなかった。

 

賢一:一発必中じゃないけれど、一回が勝負で、「二枚撮るバカ」なんて親父に言われたくらいでした。 それと今は外注だけど、現像もやっていたから、暗室でガラスの板に薬剤を塗って、それを水洗いして外に干してっていう作業が大変でした。修正も髪の毛一本一本描くようなことをしていたけど、今はデジタルですぐできるよね。

 

 

 

 

写真館で大切なのはコミュニケーション

 

 

―お二人とも麻布十番育ちですね。子供の頃はどんな遊びをしていましたか

 

道雄:今はふたをされて歩道になってるけど、ドブ(側溝)があって、近くの鰻屋さんからたまに鰻が流れて来るのを捕まえたり。

 

賢一:めんこやけん玉、ベーゴマ、あとは自転車に乗って遊んでました。

 

 


―街はずいぶん変化したと思いますが、どんなところにそれを感じますか

 

道雄:全然違ってしまったよね。今は隣近所同士の付き合いがなくなった。昔は向う三軒両隣という感じで、歩いている人も知ってる顔ばかりだったけど。

 

賢一:飲食店が圧倒的になって、跡取りがいないのもあるだろうけど、昔からの店がなくなってしまって残念です。

 

 


―他の写真館がなくなり、松尾写真館が残った理由はどこにあるとお考えですか

 

賢一:跡取りがいたのと、3代、4代っていう人とのつながりがあったことかな。子供の時にうちで撮影した女性がそれを覚えていて、近県に越しても、自分の子供もここで写真を撮りたいと来てくれたり、また「松尾さんじゃないと目をつぶった写真になるから撮らない」という学長さんがいたりで。だから僕はもう83歳で、引退したいんだけど、撮ってほしいというお客さんがいる限り続けていくつもりです。

 

道雄:いい顔を引き出すためにコミュニケーションを大切にしてきたことかな。シャッターチャンスをいかにうまくとらえるかを考えて。だから赤ちゃんをあやすのは今でも上手。写真館に来た赤ちゃんはほとんどが泣くでしょ。写真を撮るにはとにかく泣き止ませないといけない。これまで何千人も赤ちゃんを抱いてるからね。

 

 


―写真館で培われた意外な特技ですね。最後に松尾寫眞館のこれからについてを

 

賢一:息子の代になって昔のカメラを展示したり、ペットやマタニティの撮影をしたり、僕たちの時には考えられなかった色々なことをやっているのはいいと思います。頑張って続けてもらいたいですね。

 

道雄:松尾寫眞館で写真を撮って、その写真を紙に残して、目に触れるところに置くといいと思います。僕の部屋には家族の生まれた時からの写真が貼ってあるんだけど、例えば喧嘩した時に、それを撮った時の気持や風景を思い出して冷静になれたりする。だから写真を残して時々見てほしいんですよ。

 

 

松尾寫眞館

 

松尾寫眞館

レトロな店構えも注目されるポートレート専門の写真館。ドラマや映画に使われることもあり、最近ではジャニーズのCDジャケ写の撮影が行われ、同じ写真を撮りたいと訪れるファンが多いという。昔の写真を美しく甦らせる技術も受け継がれている。記念写真や受験用、ペットなどさまざまな写真を手掛ける。

 

住所:港区麻布十番2-1-11
電話:03-3451-4317
営業:10:00~19:00
火曜休
» 公式サイト内お店情報はこちら

 

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