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十番ばなし

麻布十番の店主が語る 十番ばなし #025 「福島屋」 藤田剛生さん

大正10年に創業した福島屋は現在の店主・藤田剛生さんで3代目。店名は創業者の藤田さんの祖父の出身地に由来している。現在は一階が自家製のさつま揚げとおでんのテイクアウトのお店、二階はお酒も飲める飲食店になっている。長きにわたるお店の歴史や今のことを3代目にうかがった。

 

 

 


 

 

―福島屋さんは港区で唯一のかまぼこ店だそうですね

 

藤田:そうなんです。東京蒲鉾組合というのがありまして、以前は港区にもなん店舗があったんですが、今はうち一軒だけになってしまいました。6月にその組合のリーダー的存在であった佃權さんという会社が、人手不足によって練製品の製造販売をやめてしまった話がありまして、東京の同業者にとっては大きなニュースでした。それと同時に頑張らなきゃ、と奮い立つ気持もありましたね。

 

 

 

―いまや貴重な存在ですね。お店の変遷と剛生さんが3代目となった時のことを教えてください

 

藤田:福島県から静岡に修行に出た祖父が、東麻布でかまぼこ店を創業し、戦後にこの麻布十番商店街に移りました。父の代で商品を売るために持帰りのおでんを始めて、父の具合が悪くなってからは母が店をやっていました。父が亡くなった時、父の友人らに「どうするんだ、福島屋を」「お前が継ぐしかないだろう」などと言われたんですね。それまでは、おでん屋に生まれたからって継がなくてもいい、継がなければいけないというのは束縛だと感じて、自分には無限の可能性があると思い、外の世界でぶらぶらしていました。今思えば継げる店があるのはありがたいことなのに、愚かだったと思います。でも客観的な視点はできたかもしれません。

 

 

―今は飲食店でもあるわけですが、どのようにしてこのかたちに?

 

藤田:最初は持ち帰り専門店で、歩道に置いた縁台で召し上がる方はいましたが、お客様からは「ここでゆっくり食べていきたい」とか「お酒と一緒に食べたい」という声がずっとあり、それに応えるかたちで、母が家にあるテーブルを引っ張り出して店に置き、いきなり飲食店を始めました。私ならまず飲食店で修行してから店をやるところを母はいきなり、やっちゃえ、と。怖いもの知らずですよね。ある種の尊敬があります。そして2006年に飲食店として改装。2014年に今のように全面的にリニューアルをしました。

それと2006年にランチを始めたんですが、おでんはおかずにならないという意見も多くて。父が懇意にしていた中華料理店のご主人が、しゅうまいと豚の角煮を教えてくれたんです。それでおでんとセットにしたメニューを中心にしました。

 

 

 

 


 

―麻布十番で育った藤田さんにとって、街で印象に残ったことはなんですか

 

藤田:やはり地下鉄ができたこととアーケードの撤去は大きかったですね。でも今のような麻布十番になったのには、通るはずだった日比谷線が当時の住民の反対に遭い、通らなかったのが大きいと思うんです。陸の孤島と言われる時代が長く続き、街が丸ごとタイムカプセルに入ってしまったような時代を経て、南北線と大江戸線が通ったことで、バッとカプセルから飛び出て開花したような。だから昭和の情緒が残った今のような街になった。日比谷線が通らなかったことは不便ではあったけれども、今となっては却ってよかったんじゃないかと思います。

 

 


―眠っていたような時代があり、他とは違う発展の仕方をした街だというのは興味深いですね、そんな麻布十番への藤田さんの想いを聞かせてください

 

藤田:先輩方がずっと納涼祭などのイベントで盛り上げてきたのもあって、街が生き生きしている。ですからそれぞれの店も生き生きしてなきゃいけないですよね。まずは福島屋を魅力的な店として営業し続ける。それによって街に貢献できればと思います、

徒歩圏内に有栖川公園や芝公園など緑豊かな場所があり、大使館があり、なおかつほっとする下町情緒が残るというこの麻布十番はつくづくすごい街だと思うんです。

 


―色んな要素が詰まった街なんですね。最後に福島屋のこれからについて教えていただけますか

 

藤田;私自身が意識するのは常に前進すること。テレビの日本の長寿企業の特集番組で、経営者が異口同音に言っていたのが「伝統は革新の連続である」ということ。長く続けるために新しいことにチャレンジしようというのは常にあります。長年うちの味を愛してくださるお客様もいるのでほんの少しではありますが、さつま揚げも食感と味は自分なりに変えていますし、2年前に味噌おでんを始めたのもその一環です。

これからも名物を増やして、飲食店のほうも軌道にのせていこうと思っています。

 

 

福島屋

一階ではおでんやさつま揚げのテイクアウト、二階はお酒も飲める気軽な居酒屋になっている。おでんの大根は、味をしみこませるために同じ工程を繰り返して店頭に並ぶ。写真の鍋の中はほとんどが大根だそう。

しそ揚げやごぼうたっぷりの香り揚げなど種類も豊富なさつま揚げはもちろんそのまま食べてもおいしい。ランチでも味わえる角煮やしゅうまいは本格仕込みの味でファンも多い。

 

住所:港区麻布十番2-1-1
電話:03-3451-6464
営業:11:00~21:45(L.O.)

火曜日
» 公式サイト内お店情報はこちら

 

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